断片

純白の解体、鉄の調律

香油の甘ったるい匂いが、喉の奥を執拗に撫でまわす。

「指を曲げなさい。それは慈しむためのものではなく、絡め取るための鍵です。……いいえ、まだ足りません。もっと、獣を誘うようなしなりを」

ゾフィーの指先が、リーザの震える手首を冷たく締め上げた。その冷徹な感触は、冬の泥土のようにリーザの体温を奪っていく。 リーザは唇を噛み、己の内に残された最後の聖域を死守しようと、心の中でその名を唱え続けた。 (エリオット様。……エリオット様)

数日後、彼の成人を祝う夜。その神聖な夜に、彼という光に、自分という全てを捧げる。その一事だけが、この辱めに満ちた指導に耐える唯一の、そして絶対の免罪符であった。 ゾフィーの言葉は、その免罪符を少しずつ、鋭利な刃で切り刻んでいく。

この数日、リーザは碌に着衣も許されず、ひたすらゾフィーに性技を教えこまれていた。それはゾフィー自身が、少女だったころから十余年の間、屋敷の主人によって仕込まれたものだった。

「声が震えています。それは、快楽に蕩けた音ではありません。ただの、惨めな家畜の悲鳴です」

愛を囁くはずだった言葉の断片が、効率化された「音」へと解体されていく。 彼に触れたいと願った指先の微かな震えが、「技術の不足」として冷酷に修正される。 リーザが大切に、それこそ命を賭して育んできたエリオットへの恋情。それが、ゾフィーという鏡を通すたび、形を持たない醜悪な「型」へと姿を変え、彼女の自尊心を容赦なく削り取っていった。

「さて、リーザ。仕上げとしましょうか」

ゾフィーの瞳に、獲物の骨が折れる音を待ち望むような、昏い悦楽が宿った。 彼女はリーザの耳元に、死者の息のような冷たさで唇を寄せた。

「若旦那様との夜を迎えるまでに、その身体を……よく馴染ませておかなければなりません。道具には、それに相応しい下地が必要ですから」

リーザの指先から、一気に血の気が引いていく。 氷の塊が胃の腑に落ちたような、身の毛もよだつ予感が、彼女の全身を硬直させた。

「若旦那様を満足させるための、予行演習です。幸い、屋敷の男たちは力が有り余っています。彼らが、貴女のその……未熟な肉体を、隅々まで調律してくれることでしょう」

扉の向こう側から、獣の吐息を隠そうともしない、無骨な気配が漏れ聞こえてきた。 それは、数分前までリーザが縋っていた、エリオットという名の淡い希望を完膚なきまでに踏みにじる、暴力的な重み。

リーザの視界が、急速に色を失っていく。 彼のために。その一念で守り抜こうとした、唯一の純潔。 その場所が、今、彼以外の……名前も持たぬ無数の男たちへの供物として、差し出されようとしている。 支えにしてきた「愛」は、いまやリーザをさらなる地獄の深淵へと、逃げ場もなく引きずり下ろす重い呪いと化した。

「……あ」

乾いた声が、喉の奥で潰れた。

扉がゆっくりと、死の門のように開く。 部屋の中に、汗と泥に塗れた獣のような匂いが満ちていく。 その濃厚な闇が、リーザの瞳に灯っていた最後の、あまりに儚い光を、無造作に、残酷に塗りつぶした。

リーザの心の中で、何かが音を立てて折れた。 それは、もう二度と元には戻らぬ、硝子細工が砕けるような、静謐で致命的な亀裂であった。

鏡の向こう、焦点の合わぬ彼女の瞳は、もはや誰も愛さず、何も映さない。 ただの肉の塊となった少女を、無慈悲な夜の底が、静かに、深く飲み込んでいった。

少女の心を砕く狂宴は、数昼夜続いた。

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