一瞥

青い月に捧ぐ、蜜の従順

成人の儀を終え、エリオットは月の光に満ちた自室へと戻った。重厚な木の扉が閉まると、外の喧騒は一瞬にして彼から切り離された。

窓から差し込む青白い月明かりの下、天蓋付きの大きなベッドの傍らに、リーザが静かに立っていた。彼女はエリオットの姉代わりであり、教育係でもある。幼い頃から変わらぬ、清潔なメイドの制服に身を包んでいる。

「エリオット様、お帰りなさいませ。成人の儀、無事に終わられたようで何よりです」

リーザの声は、夜の静寂に溶け込むほどに柔らかかった。彼女は歩み寄り、エリオットの前に立った。彼女の瞳には、いつもと変わらぬ献身的な光と、しかし、どこか遠くを見るような、拭いきれない悲しげな色が宿っていた。

エリオットは、緊張で指先が震えているのを隠せなかった。彼は、リーザをメイドとして、そして、一人の女性として深く愛していた。

「リーザ……、僕は……」

「わかっております、エリオット様。今夜は、私が貴方様を『男』へと導く手ほどきをさせていただきます」

リーザは、優しく、しかしどこか冷淡な微笑みを浮かべた。

天蓋付きのベッドの上、清潔な白いシーツが、月明かりを浴びて輝いていた。リーザの指先が、エリオットのシャツのボタンを一つ一つ、丁寧に解いていく。彼女の肌の白さは、月の光に照らされて、陶器のように滑らかに見えた。

行為そのものを説明する言葉など、必要なかった。解かれたリボンの行方、乱れた呼吸、窓を叩く風の音、重なり合う影の揺れ。それらが、少年の成人の儀を、静かに、そして、甘美に物語っていた。

だが。

陶酔の最中、エリオットは彼女の身体に刻み込まれた痕跡に気づいてしまう。彼女の肌の白さとは対照的な、あまりにも手慣れた彼女の反応。如才ない手つき。そして・・・明らかに男を知っている、反応。

それは、彼女の過去を奪った名もなき誰かの、消えない軛のように思えた。

陶酔は、一瞬にして、残酷な気づきへと変わった。

嫉妬。それは、彼女を奪った者への、そして、彼女を救えなかった自分への、重く暗い感情だった。エリオットの瞳から、幼い初恋の甘さは消え失せ、代わりに、暗い情念が、独占欲へと昇華されていった。

エリオットは、リーザを抱きしめ直した。彼の指先は、今度は、彼女を所有するための熱い指先へと変わっていた。

「リーザ、これからは、指先一つ、髪の一筋まで、お前のすべては僕のものだ。誰にも、お前を奪わせはしない」

リーザは、一言も発しなかった。

だがエリオットの声は、少年の幼さを脱ぎ捨て、一人の男としての、決意と支配の意志を帯びていた。

月の光は、ベッドの上を照らし続け、二人の影は、いつまでも、重なり合っていた。

タイトルとURLをコピーしました