断片

ツインテールの結び目、解ける理性

その日は、瑞希のツインテールが、いつもより高い位置で、心持ち威勢よく揺れていた。

「ちょっと、何ニヤニヤしてんのよ。気持ち悪いわね」

駅前の雑踏の中、俺の視線に気づいた瑞希は、案の定、可愛らしい唇を尖らせて睨んできた。ツンとすました横顔。スレンダーな体に、タイトなジーンズと白いブラウスがよく映えている。胸元が少し寂しいのは、彼女の最大のコンプレックスであり、同時に俺にとっては、守りたくなるような、愛おしい標(しるし)でもあった。

「別に。今日の瑞希は、一段と元気だなと思ってさ」

俺が軽く流すと、彼女は「ふん」と鼻を鳴らし、勝手知ったる足取りで歩き出した。

デートは、瑞希のペースで進んだ。

まずは、新しくできたアイスクリーム屋。
「これ、超美味しい! ほら、あんたも一口あげ……って、なんでそんなに大きく食べるのよ! 馬鹿!」
俺が彼女の差し出したスプーンから、予想以上に大きくアイスを掬い取ると、瑞希は顔を真っ赤にして怒った。けれど、その目は笑っている。結局、彼女のアイスの半分以上は、俺の胃袋に収まった。

次は、ゲームセンター。
「あー! もう! なんで取れないのよ! あのぬいぐるみ、絶対に欲しいのに!」
UFOキャッチャーの前で、瑞希は地団駄を踏んでいた。狙っているのは、彼女に似た、少し生意気そうなウサギのぬいぐるみだ。
「貸してみ」
俺が代わると、一発でアームがぬいぐるみを捉えた。
「……やるじゃん。ま、アタシが途中まで動かしておいたからだけどね」
受け取ったぬいぐるみを大事そうに抱えながら、瑞希は照れ隠しにそう言った。その姿は、まるで小さな子供のようで、俺の胸を温かくした。

夕暮れ時、街並みがオレンジ色に染まり始めた頃。

瑞希は、抱えていたぬいぐるみを俺に押し付け、少しはにかんだ笑顔を見せた。
「……今日は、ありがと。楽しかった」
その声は、昼間の元気な瑞希とは、少し違っていた。柔らかく、どこか湿り気を帯びている。

彼女は、俺の顔をじっと見つめ、それから視線を落とした。
「……ねえ、今日……父さんと母さん、出張でいないの」
鼓動が、一瞬、止まった。
「……姉さんも、友達の家に泊まるって」
彼女の言葉が、夕闇の中に溶けていく。街の喧騒が、遠く離れた場所のことのように感じられた。

瑞希の家は、昼間の賑わいが嘘のように、静まり返っていた。

リビングに入ると、彼女はぬいぐるみをソファに置き、俺に向き直った。
「……何か、飲む?」
その声は、微かに震えている。俺は、首を振った。

彼女は、俺の視線から逃げるように、窓の外を見つめた。
「……ツインテール、ほどいていい?」
俺の答えを待たず、彼女は高い位置で結ばれていた髪に手をかけた。ゴムが外され、美しい栗色の髪が、ハラリと彼女の肩にこぼれ落ちる。

その瞬間、俺の知っている「幼馴染の瑞希」の仮面が、音を立てて崩れ去った。

髪をほどいた彼女の横顔は、驚くほど大人びて、妖艶でさえあった。西日に照らされた彼女の肌は、滑らかで、陶器のように白い。

彼女は、ゆっくりと俺の方を振り返った。
潤んだ瞳が、俺の目を真っ直ぐに射抜く。その瞳の奥には、昼間の強がりなど微塵も存在しない。ただ一人の「女」としての、熱い情熱と渇望が、渦巻いていた。

「……瑞希」

俺の声は、自分でも驚くほど掠れていた。

一歩、近づく。
彼女からは、アイスクリームの甘い香りに混じって、彼女自身の、噎せ返るような肌の匂いが立ち上っている。

彼女の指先が、俺のシャツの裾を、微かに掴んだ。その指先は、小鳥のように震えている。

「……馬鹿。……遅い」

耳元で、甘く、低い声が囁かれた。

重なり合う吐息。
衣服が擦れる、乾いた音。
心臓の鼓動が、二人の間で、激しく脈打つ。

俺の手が、彼女の細い腰へと伸びる。指先から伝わるのは、彼女の体温と、僕を求める確かな震え。

昼間の街の喧騒も、彼女の強がりも、コンプレックスも。
すべてが、この静寂と、彼女の熱の中に、溶けていく。

明日になれば、また彼女は「幼馴染の瑞希」に戻るだろう。
けれど、今この瞬間。俺の目の前にいるのは、俺を深く愛し、俺を求めて震える、一人の「女」だった。

「・・・綺麗だ。」

「馬鹿。」

二人の距離が、ゼロになる。
肌は冷たく、だがその奥で滾る熱を確かに感じられた。

沈みゆく太陽が、部屋を赤黒い影に飲み込んでいく。その闇の中で、彼女の濡れた瞳だけが、これから始まる終わりのない快楽の夜を、約束していた。

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